不動産購入時の自己資金額の決め方
不動産を購入する時にいくらの自己資金を入れるのが最適かを考える際に、フルローンを引くのが良い、出来れば諸費用まで借りれると良いと思っている方も多いと思いますが、それは手元で使う現金が少ないから良いという判断だと思いますが、不動産単体ではなく資産全体で、投資効率を考えた時にどうかという観点が無ければ正解はありません。
例を使って考えていきましょう。
前提条件
・ 物件価格 1億円
・ 営業純利益(NOI)600万円
※ 10年間営業純利益(NOI)は変動しないものとする
※ 売却時の還元利回り(Cap Rate)は6%のままとする
※ 諸費用は簡便的に考える為に考慮しない
・ 総資産 預貯金1億円
・ 借入時の条件 : 借入金額 LTV90%を上限、金利 2%、借入期間 30年
※ROA、ROEの分母の総資産、純資産は本来期首、期末の合計÷2ですが、簡便的に行う為に期末の数字を採用しています。
検証
■ 借入無しの内部収益率(IRR)
(単位 : 千円)
借入無しの内部収益率(IRR) 6%
純資産 1億6,000万円
■ 借入有りの内部収益率(IRR)
(単位 : 千円)
借入有りの内部収益率(IRR) 26.76%
純資産 1億4,432.3万円
結果
■ 内部収益率(IRR)の比較
借入無しの内部収益率(IRR) 6%
借入有りの内部収益率(IRR) 26.76%
借入無しの内部収益率(IRR)6%に対して、金利が2%なので、プラスのレバレッジがかかり、借入有りの内部収益率(IRR)は、26.76%になっています。
一見この効率だけを見ると、借入をした方が良さそうに見えます。
■ 純資産の比較
借入無しの純資産 1億6,000万円
借入有りの純資産 1億4,432.3万円
純資産を見ると、借入無しの純資産が、1億6,000万円に対して、借入有りの純資産は、1億4,423万円と、借入無しの純資産の方が1,577万円多いです。
■ ROA、ROEの比較
・ 1年目
借入無し ROA 5.66%、ROE 5.66%
借入有り ROA 3.12%、ROE 1.93%
・ 10年目
借入無し ROA 3.75%、ROE 3.75%
借入有り ROE 4.16%、ROE 1.39%
1年目では、ROA、ROE共に借入無しの方が、数字が大きいことがわかります。
内部収益率(IRR)は、借入有りの方が高いのに、ROA、ROEは、借入無の方が高くなります。
この現象が何故起きているかというと、借入有りの内部収益率(IRR)はあくまで初期投資額の1,000万円に対しての効率だからです。
1,000万円は26.76%の効率で運用出来ているけど、9,000万円は0%ということです。
一つの不動産ということで、投資効率を考えると、借入有りの方がレバレッジがかかり、効率が良いけれども、1億円の投資と1,000万円の投資を比べているので、同じ土俵に乗せて比較をしていないのです。
比較するのであれば、
1億円の現金を使う場合であれば、1億円を不動産投資に使うのと、違う投資や運用に使うことや別の物件の場合はどうかということ、
1,000万円の現金を使う場合であれば、1,000万円を不動産投資に使うのと、違う投資や運用に使うことや別の物件の場合はどうかということ、
です。
つまり、自己資金をいくら入れた方が良いのかという問題に対しての答えは、該当不動産の内部収益率(IRR)を聞いただけでは分からないという事が正解です。
1億円の現預金を不動産投資に使うことが出来る状況で、LTV90%で借入を行った場合には、残りの9,000万円はどうするのかという方針がないと正解はでません。
もし、その不動産だけしか投資しないという事が決まっているのであれば借入をしないことが一番効率が良く、他にも不動産投資などなにか運用を行うという事であれば借入をした方がいいです。
不動産を軸に投資効率を考えると、借入をして内部収益率(IRR)を高めるという事が最善の選択肢に思いますが、資産全体を俯瞰して見る事で見えてくる本質があります。
目の前にある選択肢しっかりと数値化して、時価ベースの純資産を最大化するには、どうすれば一番効率が良いのかということを考えると答えがでます。
このような観点からも一つの投資として考えるだけでなく、資産全体を分析する大切さが分かります。